2020年4月12日

コロナウイルスに関するお願い

創めたばかりのつたない文章で、一部の熱狂的なファン(!)を除き、
 
未だ読者数の伸びない当ページですが、
 
今夜は全世界に向けて(!)発信したいと思います。
 

 
当院は、先週末から在宅勤務を導入しました。


 
在宅医療を――患者さんを、その家族さんを、地域で頑張っている
 
在宅スタッフのみなさんと、そして職員を、
 
守りたかったからです。
 

 
この山陰にもCOVID-19の気配が漂ってきました。
 
今までに十分準備する時間はあったけれど、万全だなんて、
 
誰にも言えなかったんじゃないかな。
 

 
スーパーはマスク姿の人たちでごった返していた。
 
車の往来もあまり変化はなくて、地方紙の広告欄には
 
結婚式場のキャンペーン通知が載っていた。
 
カラオケも密室のカフェも開いていた。人がいた。
 


 
医療・介護に携わっていないひとが、どんな認識を持っているのか、
 
はっきり把握はしていないんだけど、「お医者さんに診てもらってれば」
 
って、安心しきっているとしたら、
 
もうそんな風に今までみたいに私たちをあてにはできないってこと、
 
わかってほしい。
 

 
言っておくけど私なんか本当に無力です。
 
もし目の前にあなたが現れて「コロナかもしれない」って言われても、
 
いつもみたいに「大変ですね、心配ですね」と目を見て向き合って寄り添えない。
 
マスク越しにこう言うでしょう。「あなたもマスクをつけて!外に出て!」
 
手袋越しに酸素のつきをはかって、脈をとるくらいでしょう。
 

 
「息苦しさは?発症して何日目?保健所に確認します!」
 
もし症状が軽かったら、
 
「薬はカロナールでいいですか?薬局に電話します。薬をもらって真っすぐ帰ってください。」
 
「数時間後、それから明日以降、容態確認のお電話します。何かあればそちらからも
 
また連絡下さい」
 

 
なんてひどい医者なんだ、そう思われるに違いありません。
 
でも本当に頑張って精いっぱい。
 

 
診察室で時間を取って、細かいお話は聞けません。
 
いつものように喉の奥やリンパ節を丁寧に診察することができません。
 
思うことは、貴方がコロナなのか、その確率を見極め検査に繋げること。
 
重症化していないかを見守り、見逃さないこと。
 
残念だけど、私は貴方が元気になるような決め手を知らない。
 
色んなカタカナの薬がニュースを飾っているけど。
 
採血するのは見極めるからであって、それで何か今ここで使える特効薬があるわけじゃない。
 

 
そして私はCOVID-19にかかりたくありません。あなたはどうですか。
 

 
どうしても出かけなければいけなかった場所にしか、出かけられなくなってしまって。
 
それでも、うつしてしまわないか、発症してしまわないか、不安におびえながら仕事してます。
 
もし無症状でなっていたとしても、「どうしたらうつさずに済むか」考えながら診療します。
 
だけどもし自分に疑わしい症状が出たら、一刻も早く家族と仕事から距離を取らないといけない。
 
診療所を閉めて、ほんとうに一人ぼっちにならないといけない。
 

 
どんな人がやって来るかわからない救急外来の診療に立つ人の、
 
その怖さわかりますか。
 
発熱患者が来る。必要だと思ってPCR検査をする。防護服を着ているうちはいい。脱ぐ順番、触ってはいけないものに触ってしまったら。
 
自分の手が汚染されてしまったら、
 
感染してしまったらどうしよう。発症するのはもちろん怖い。
 
無症状のまま、診療している患者さんに、自分の大切な家族に、
 
感染させてしまうのはもっと怖い。
 

 
自分たちの本来の診療分野を超えて、そのことを考えずにはいられない。
 
そのこと抜きに生活できない。
 

 
あのね、マスクしてりゃ、面会謝絶にしてりゃ、安心なんてことがあるわけないでしょう。
 
今マスク触りましたよね。ドアノブと、棚の商品を触った手で。
 
その手が清潔かどうかなんて、「大丈夫」って
 
胸張って言える医者は、これからはいなくなりますよ。


 
患者さん一人一人に「貴方は大丈夫ですよ」って言ってあげたい。
 
でもそんな人、世の中に独りもいない。
 
「最期まで一緒にいたい」それ貴方が感染したら、今は叶えてあげられないです。
 
どんなに気持ちが強くても、だめです。
 
貴方方に寄り添うスタッフを、危険にさらすことになる。
 
じゃあ運ぶ先はどこってなって、どこにもないってなったら…?
 
それでも我々は必死にやるしかないでしょう。


 

 
我々の後ろには、感染症の第一線で戦う急性期医療機関があります。
 
がん患者さんや難病患者さん、脳卒中、心筋梗塞。
 
その他高度な治療を必要とし続けている人が、そこを頼りにしています。
 
そしてその場所で必死に働いている仲間がいます。
 

 
彼らが「もう診れない」と言ったら、それは我々在宅が踏ん張るしかないでしょう。
 
そんな最悪の想定もしておかないといけない。
 
いつか私も死に物狂いでウイルスと立ち向かう日が来るかもしれません。
 
もしそうなったら、家族を守り切れたらと思います。そして叶うならばそこを潜り抜けて、
 
また一緒に過ごせたらと思います。


 

 
だからできるならば、制限しても制限しても、し尽せないくらいです。これからは。
 
「生きていかないといけなくて外に出ていく人間」と「目に見えないまま忍び寄るウイルス」
 
の長い戦いですよ。
 
この先どんなブログを書くことになるんだろう。


 
でもみんなで一緒に―今は各々が離れた場所から―潜り抜けたいと思います。