
慌ただしかった夏が過ぎていきました。
いろいろな経験を通して、なかなか記事を書くことができずにいた日々。ようやく秋になり、静かな気持ちで、言葉を紡ぐ準備が整いました。
「あの家族に、本人があの状態で、家で介護ができるわけないじゃないですか」
いったい誰の発言なのか。どこに住んでいるのか。どんな病気なのか。どんな家族がいるのか。
そんなことは、問題ではない。
ただ、彼らは「家で暮らしたかった」。——開院して1年、これが私たちの現実です。
「地域包括ケア」は、どこまで実現できているのか。
在宅医療に携わっていると、「地域で人を看る」ことの大切さが語られます。セミナーや意見交換会が開かれ、さまざまな職種の中で知識が共有される。
けれど、「地域を育てる」とは、実際には何から始めたらいいのか?私たちは、本当に地域を育てるような仕事ができていたのか?
正直、この点については、分からないことの方が多かった。
しかし、この夏、確信に至ったことがあります。
地域包括ケアを実現するために、必要なこと。
✅ 「1人1人を全力で大切に看る」
✅ 「自分たちに何ができるか、限界まで考え抜く」
✅ 「他者との相互理解に壁を感じても、冷静に大切なことを考え続ける」
「1人1人を全力で大切に看る」
個々の世帯が抱える苦痛や課題はさまざま。それぞれ異なる価値観のもとに、希望を持って暮らしている。
その「暮らし」そのものを尊重し、一辺倒ではない関わりをすること。
彼らの願いを叶えるために、在宅医療チームは同じ目的を共有する。それが気づきとなり、経験値となり、やがて地域全体の支えとなる。
「自分たちに何ができるか、限界まで考え抜く」
✅ 患者さんや家族の人生の選択肢を、より多様にするために。
✅ スタッフが「無理だ」と判断すれば、患者さんや家族はそれを選択することすらできない。
だからこそ、限界に挑戦する。
その挑戦が、新しい実績を生み、非常識だったことを常識へと変えていく。そして、地域の資源のキャパシティを広げる可能性を生む。
「他者との相互理解に壁を感じても、冷静に大切なことを考え続ける」
事業所ごとのカラーや、運営方針にギャップを感じることは、少なくない。地域包括ケアの難しさは、まさにここにある。
✅ 一番大切なのは、個々の職種と患者さんとのつながり。
✅ その人のために「今、何ができるのか」を、冷静に考え、伝え合うこと。
感情を交えずに、最善のケアを提言し合うこと。それが、地域医療における「本当の連携」なのではないか。
「地域を看る」とは、「1人1人を大切にする」ことの積み重ね。
1人1人に暮らしがあり、毎日がある。
どんな病気や障害があろうとも、私たちに忙しい日常があるように、彼らにも、かけがえのない生活がある。
その「棲家」を、まるで自分とは関係ないもののように否定したり、決めつけたりすることはできない。
いつか、その言葉の重みが伝わるような仕事をしていきたい。
地域を育てるために、今目の前にいる人を大切にする。
「地域包括ケアの名のもとに、我々に何ができるのか。」
それを問い続けることが、私たちの使命なのかもしれない。
開院して1年。ここからもまた、日々、地域を育てる。
この街で暮らすすべての人の、前向きな「生」に向けた挑戦。私たちは、常に受けて立つ。
一つ一つの仕事を通して、恐れることなく進み続ける。
また、この街のどこかで、隣町のどこかで、笑顔でお会いしましょう。
よだか診療所 前角衣美
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