「痰が絡んで、酸素も取り込めていないし…」
「あんな状態では、あの施設では無理よね…」
スタッフの間で交わされる会話。
ほどなく情報提供書が作られ、病院へ相談が入り、救急車のサイレンが聞こえてきます。
住む主を失った部屋は、鍵がかけられ、食堂のテーブルに空席ができて、
ふと気づけば退去の手続きが進んでいる。
家を離れ施設で暮らしている方たちにとって、入院とはしばしば、病院に住むこととも言えます。もちろん居場所を確保したままにしておくことも現実的には可能なケースもありますが。
帰る場所がないひとは、次の引っ越し先を当らなければいけない。
たどり着いた新しい場所でまた容態が悪くなれば、そこもまた離れなければならない。
身体と思考が衰えつつあるころ、住まいというよりどころを失うことは、自分のアイデンティティーの大いなる揺らぎに繋がっている。
・「自分んちに居れたらそれでええ」
治療を打ち切って病棟を飛び出した。血圧は上がったし、血液検査も
悪い。
でもおはぎも寿司も美味しい。
先はないとわかっているが、ここにさえいられれば。
・「職員さんのことが大好きだから 家族は遠くてなかなか会えないけど
ここがいいの」
寝たきりになってもふるさとは離れない。家族には迷惑をかけたくな
いし、何年も住んでいるここは居心地がいい。
あなたにとって住まいとはなんですか。
お気に入りの家具や趣味の道具、思い出の詰まった空間。
身体になじんだ寝具。
毎日見知った顔で始まる朝の食事。
そんな場所をいつか失うことを、想像できますか。
住まいを諦めない在宅医療始めます。 ここを離れるべきです。と言う場合もあります。 それはまた、別の話。
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