皆さんこんにちは。米子市の在宅医、前角です。
最近久しぶりに本屋さんに立ち寄りました。
生活雑誌コーナーの最新号2冊に、「介護生活特集」が載っていました。
親御さんのお世話をするひと、あるいは自分自身の介護について考えるひと、
そのような方が迷ったり困ったりされることがやはり多いのだなと感じました。
ですからきょうは「安心した介護療養」のために、
どうやってよりよいセーフティネットを作ればいいのか、ご提案したいと思います。
医療と介護の両方の側面からこれは準備が必要ですね。
今回は医療の準備から考えてみましょう。
― 日頃の困りごとを見つめなおす
通院が億劫になってきた、待ち時間も体がきつい、体調管理のために何回も受診しなければならない…
困ったな、という素朴な疲れや問題意識が大切です。
ぜひ在宅医療を生活に取り入れることを考えてみて下さい。
どんなお医者さんに会いたいですか、一緒に考えてみましょう。
―在宅医は人生の伴走者
もしも長らく持病を抱えていたら、この先それをどのように治療するか、どんな風に向き合いたいかは、お医者さんと話し合いながら決めるべきです。
昔は「医者の言うとおりに」というのが治療のセオリーでしたが、今は患者さん1人1人の個性や価値観、そして「こんな風でありたい」というポリシーを大切に治療を選択するのが、医療の基本になりました。
病や障害を抱えながら頑張って生きて行くのは患者さん自身であり、その思いに沿って医療者は知識や技術を発揮するべきと考えられるからです。
このために必要な話し合いが「アドバンス ケア プランニング/ACP」というものです。お医者さんと話し合う、ちょっと緊張します。でもそれが叶う医師を見つけて頂きたいものです。
いつも暮らしている自宅に医師がやってきたらどうでしょうか、片付けてきれいにしておかなくっちゃ、と慌てますかね。いやいや、そんなお構いは無用です。ありのままの患者さんと、みなさんの暮らしの場を拝見することで、何を大切に生活されているかが分かるからです。
― 医者の話を聴く 医者が話を聴く
「こんな風だといいのに」というあなたの思いを、まず我々はしっかり聞きます。
「どうしてそんな風に思われるのですか」と問い返すのは、皆さんが大事にしている価値観を共有するためです。
もし患者さんがお話しできない時には、ご家族に同じ質問をします。
本人の思いを一緒に推しはかりながら、ご家族の心配事や思いも一緒に伺います。
皆さんの願いが叶うように、医療に何が出来るのか、今度は医師がお話しします。医学は科学ですから、様々な選択肢にメリットとデメリットがあります。一緒に天秤にかけながら、患者さんにとって最良とは何か、一緒に考えてみましょう。
― 話しやすい 聞いてくれるお医者さんを目指して
このように現代の医療は患者さん1人1人の価値観を大切に診療することを常としています。
何でも相談できて、さまざまなアドバイスをもらえる医療のパートナーが身近に見つけられたら、不安や疑問を解消して安心して暮らせるようになるんじゃないでしょうか。
大切なのはみなさんと医師との繋がりの質です。話し合いは相互の信頼の中で行われるから、心地よく、意義のあるものになります。
医学は科学である以上、時には悲しい話や希望にそぐわない話題も出てくることがあります。例えばあなたが「好きなものを好きなだけ食べたい」「遠くまで自分の足で歩きたい」「なるべく長生きしたい」と思った時に、内臓の機能が低下していて、食事や運動量に注意しなければ内臓に負担がかかってしまう場合「すべてをかなえて差し上げましょう」とは言えません。それは真実ではないからです。
また、がんの治療がこれ以上見つからない場合、「何とか治療を見つけてほしい」という希望にも、残念ですがこたえることが出来ません。私たち医療者は、全能ではないのです。
けれども、問題の根本的な解決が難しい時、医師と患者がお互いに信頼しあえていれば、一緒に苦しみを乗り越えるための話し合いがきっとできるはずです。いつか正解のない問いに応えなければならない時、一緒に悩み、考えて、希望をできるだけ多く叶える。
それが、私たち医師の努めだと思っています。
介護療養において、医療の準備は重要なステップです。在宅医療を取り入れ、話しやすく信頼できるお医者さんを見つけることで、安心して暮らせる環境を整えましょう。
在宅医療におけるACPとは
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、成人患者と医療者が、患者の価値観、人生の目標、将来の医療に関する望みを理解し共有し合うプロセスです。病気の進行や治療方針について、患者さんと家族が納得し、選択できるようにするための重要なステップです。
ACPの目的
ACPの目的は、重篤な疾患や慢性疾患において、患者さんの価値観や目標、選好を尊重しながら、最適な治療やケアを提供することです。痛みや身体的・心理的・社会的な問題を早期に見つけ、的確に評価・対応することで、苦痛を予防し和らげることを通じて、患者さんの
QOL(生活の質)を向上させるアプローチです。
ACPのタイミング
ACPは、以下の状況で進めることが求められます:
在宅医療が開始/再開されたことで意向や意思を確認しなければならない状況: 退院時カンファレンスなど、在宅医療が始まるタイミングで患者さんの意向を確認します。
日々の関わりの中で本人の思いを聴き取る必要があると思われる状況: 定期的な訪問やコミュニケーションを通じて、患者さんの意向を知ります。
病状の進行時やADLの低下時など、心身機能や状態に変化がみられる状況: 変化の速さにも注目し、適切な方針を考えます。
身体状態が最終段階に入り、本人の人生の終わりに向けて寄り添っていく状況: この時期にACPを進めることが重要です。
家族から意思の表出があったとき: 家族の意向も考慮しながら進めます。
家族に不安や負担感が生じていると推察される状況: 家族のサポートも重要です。
呼吸不全の身体的な状況(体重減少、1秒量が予測値の30%未満など): 病状に合わせて柔軟に方針を変更します
在宅医療においてACPを進めることで、患者さんと家族が積極的に参加し、最期まで尊厳ある時間を過ごせるようサポートできることを願っています。
Comments