命をバトンタッチさせて頂いてからの自宅生活は、現実的な困難が押し寄せてくる。
その中で「散っても降っても愉しい」を具体化していくことに、 在宅医療の醍醐味があります。
通院の難しい方にとって、体調の不安定さは日常の一コマと言っても いいくらいです。
何の病気で、何歳で、どれくらい寝たきりなのか。
どれくらい、栄養が足りているのか。心身が衛生的なのか。
それによって内容は違ってくるけれど、それぞれの住まいに心配は尽きません。
例えば、末期がんの方であれば、病気の進行は誰にも止められない。
難病の方達の中には、自力での呼吸や口からの栄養補給が難しくなり、
生き続けるために機器が必要になる方がいます。
認知症の進行した方は、自分の体調不良をうまく他者に伝えられなかったり、治療のわずらわしさを受け入れることが難しかったりします。
そのようなベースがあったうえで発生した病的な状態を、 どのように「治療」するのか、また個々の辛さをどのように「緩和」するのか。
医師は、両方の目を持つことが必要です。
その側にいてアドバイスをくれるのが、看護師、薬剤師、リハビリ療法士などの多職種のスタッフです。
連携するのは医療者だけではありません。
ケアマネージャー、ヘルパーの方からも、情報を頂いたり介護の知識を教えて頂いたりしなくてはいけません。
「どうして救急車呼ばなかったの」
ご高齢ながらにも穏やかな療養を続けられた後、急変された方のこと。
「CRP4あるけど、抗生剤行かないってどういうこと」
施設で点滴による水分補給を拒否されたまま、尿の感染が悪化した方のこと。
その方々は何を目的に、何をよすがにして生きておられたのでしょうか。
心臓を動かすこと、CRPを下げることが目標ではないはずです。
そのひとが、どんな心の支えを持っておられるのか。
それを損なうことのないよう「治療」に向き合わなくてはなりません。
だから解決策は人それぞれであって、決まった答えなんか決してない。 あるとしたらあなたの中にあって、それを引き出していくことを 「意思決定支援」と呼んでいたいと思います。
「先生熱出てるけどね、いつものことだから。水分取ってカロナールでしょ。 往診はいらないわ」
「先生、顔が何だかかゆいって。家族が今来てほしいって」
何が健康で、何があなたの日常なのか。
それはあなたに決めてもらうところが大きい。
「先生本人むくんでいるけど、今日は元気で調子いいって言ってます。 人前で酸素は吸いたくないって。」
「緩和の薬が効いているのでしょう。本人の気持ち次第で 大丈夫です」
主治医として水のように受け止めていたいものです。
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