
─医療情報学会中四国セミナー講演報告─
2025年3月8日、鳥取大学医学部 にて開催された 医療情報学会中四国セミナー にて、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」をテーマに講演をさせていただきました。
ACPの本質は“ほうれんそう”──日常の中で自然に進めるもの
ACPの重要性は、多くの場で語られています。しかし、実際の現場では、
✅ 患者さんの価値観を共有しきれない
✅ 急性期病院とかかりつけ医の間で情報がうまく伝わらない
✅ 本人家族の理解が追いつかず、医療者と認識のズレが生じる
といった問題が後を絶ちません。
そこで今回の講演では、「ACPの本質は何か?」を改めて考え、未来のカルテシステムに挑んで下さっているシステムエンジニアの方々をはじめとした地域の皆さんに、私たちが実際の臨床現場でたどり着いた結論 をご紹介しました。
それが、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」こそがACPの核である という考え方です。
ACPは、ある日突然「決めなさい」と言われて決められるものではなく、日々の対話や関係性の積み重ねの中で、自然に形作られていくもの です。
例えば、米子市の在宅医療 の現場では、
• 訪問診療の際、患者さんのさりげない一言から意思の変化に気づく
• 訪問看護師や介護士が、日常の何気ない会話の中で大切な価値観を引き出す
• これらの情報を医師・多職種が共有し、チーム全体で意思決定をサポートする
こうした「多職種のゆるやかな情報収集と共有」がベースにあるからこそ、ACPがスムーズに機能するのです。
現場のリアルな課題と、多職種の工夫
今回のセミナーでは、各分野の専門家の方々からも、貴重な実践報告がありました。
✅ 鳥大病院 心不全認定看護師 万場看護師
心不全患者さんにおけるACPの進め方について、事例を交えて紹介。心不全は病状の変化が激しく、ACPのタイミングが難しいため、多職種が常に情報を更新し続けることが重要との指摘がありました。
✅ 湊山地域包括支援センター 中崎保健師
介護の現場では、医療情報の共有が遅れるとACPが形骸化してしまう問題を指摘。介護職が「医療の橋渡し役」としてどのように動けるかを議論しました。
✅ 博愛病院 乳癌認定看護師 桜井看護師
院内でACPノートを作成し、患者さんの希望を「見える化」。実際に患者さん・家族の満足度が向上した事例を共有してくださいました。
✅ 日野病院 近藤局長
病院と在宅医療の連携の現状と課題について発表。特に、退院支援時の情報共有の不備が在宅医療の妨げになる点を指摘くださいました。
デジタル田園都市構想とACPの未来
また、米子市 がモデル都市となって企画が進んでいる、「デジタル田園都市構想」 についても鳥大病院医療情報部の寺本先生から最新の報告を頂きました。
高齢化・貧困化・孤立化が進む地域において、
• 電子カルテやAIを活用した患者情報の統合管理
• 米子の在宅医療 と病院の間での受け入れ状況や診療情報提供などのリアルタイムな情報共有
• 音声入力やリモートカンファレンスの活用による多職種の負担軽減
• 訪問介護の現場における新しい買い物支援(配達業者への代行入力)
といったデジタル技術を駆使することでACPとその実現をよりスムーズに進められる可能性を提示くださいました。「だれ一人取り残さない」という先生のお言葉が非常に印象的でした。
現実問題としては、
• ITリテラシーの格差
• セキュリティ・プライバシー問題
• 医療者の業務負担増加
といった課題もあり、単なるシステム導入では解決できない部分が多いのも事実です。
しかしながら、米子市の在宅医療 の立場からも、この構想に対し、現場の声を積極的に届け、より実践的な仕組み作りに貢献していきたいと考えています。
ACPは「決める」ものではなく「育てる」もの
今回のセミナーを通じて改めて実感したのは、ACPは単なる「意思決定のための手順」ではなく、
✅ 日常の中で少しずつ情報を積み重ねるプロセスであること
✅ 多職種がゆるやかに連携し、患者さんの意思を共有することが鍵であること
✅ デジタル技術の活用により、より円滑な情報共有が可能になること
という点です。
とはいえ、いくらAIやITを活用しても最終的に患者さんの思いをくみ取るのは、私たち「人間」の仕事です。 情報をデジタルで効率化しながらも、患者さんの声に耳を傾け、関係性の中で自然にACPを育てていく ことが、何よりも大切だと考えます。
これからも、米子の在宅医療 の現場からACPの実践を深め、より多くの患者さんが自分らしい医療を受けられるよう尽力していきます。
貴重な機会をいただきました関係者の皆さま、本当にありがとうございました!
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