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【「地域包括ケア」掲げられた理想と 光と影】




慌ただしかった夏が過ぎていきました。 様々な経験を通して、なかなか記事が書けずにいた今日この頃、やっと秋になり、静かな気持ちになって、言葉を紡ぐ準備が整いました。 「あの家族に本人があの状態で、家で介護ができるわけないじゃないですか」 いったい誰の発言なのか。 どちらにお住まいで、何のご病気でいらっしゃるか、 どなたと住んでいらっしゃるか、それは問題ではありません。 ただ、彼らは家で暮らしたかった。 開院して1年、これが我々の現状です。 在宅医療に携わっていると、地域で人をみるという話によくなります。 そのためのセミナーとか意見交換会は、様々な職種の中に浸透しつつあります。 けれど地域を育てるって実際何から始めたらいいのでしょうか。 果たして私達は仕事を通して、地域を育てたりしていたんでしょうか。 正直この点に限り、分からないことの方が私は多かった。 それがこの夏、確信にいたりました。 大切なのは 「1人1人全力で大切にみる」「自分たちに何ができるか限界まで考え抜く」 「他者との相互理解に壁を感じても 冷静に大切なことを考え続ける」 ことです。 「1人1人全力で大切にみる」 個々の世帯が抱える苦痛や課題は様々です。それぞれ違う価値観のもとに 希望をもって暮らしておられること、そのことそのものを尊重し、 一辺倒にならない関りが必要です。 彼らの願いをかなえるために在宅チームは同じ目的を共有します。 それが気づきとなり、経験値になっていきます。 「自分たちに何ができるか限界まで考え抜く」 患者さんや家族のみなさんの人生の選択肢がより多様化するよう、 我々はそのニーズに最大限応えるべきです。 スタッフが「無理だ」と判断したことは、患者家族には選択できないから。 限界に挑戦することで、実績が生まれ、非・常識だったことが常識になり、 地域資源のキャパシティが変化していく可能性が生まれます。 「他者との相互理解に壁を感じても 冷静に大切なことを考え続ける」 事業所ごとのカラーや運営方針にギャップを感じ、戸惑うことがあります。 地域包括ケアの難しさはここにあると考えます。 一番大切なのは個々の職種と患者さんとの繋がりであり、彼らのために自分達に 何ができるか、その時最善のケア・提言を、感情を交えずに冷静に伝達し合うことが大切だと気づきました。 一つ一つの経験の蓄積が、地域の支えを強める鍵だったのです。 患者さんの希望を叶えていくために、我々は連携しているわけですから。 1人1人に暮らしがあり、毎日があります。 それはどんな病気や障害があっても変わらないはずです。 我々に忙しい日常があるように、彼らにもかけがえのない生活があります。 その棲家を我が事とも思えないまま、否定したり、決めつけたりしない方がいい。 いつかその言葉の重みが、相手に分かってもらえるような仕事がしたい。 ですから地域を看るために、我々は個々の体験や関係作りを改めて 最重要視することになったのです。 開院して1年、これからもまた日々、地域を育てる。 そのために今目の前にいる人のことを大切にする。 これが私の答えです。 地域包括ケアの名の下で、我々にどんなことが実現できるのでしょう。 この街で暮らす全ての人の、前向きな生に向けた挑戦状。 我々は常に受けて立つ。 一つ一つの仕事を通して、恐れることなく進み続ける。 またこの街の、隣町のどこかで、笑顔でお会いしましょう。

                 



よだか診療所                         前角衣美

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